2016年6月30日木曜日

陳情「所得税法第56条廃止について」の賛成討論

 6月定例会議の最終日6月30日に相模原民主商工会婦人部協議会から出されていた陳情「所得税法第56条廃止について」の賛成討論を行いました。
 採択は定数46名中賛成8名(共産党5名、颯爽の会3名)で不採択となりました。

日本共産党市議団を代表して、陳情第20号「所得税法第56条の廃止について」に賛成する立場から討論を行います。
所得税法第56条の問題には、所得税法56条、そして所得税法57条も関係してきます。
56条は、生計をともにする家族従業員に給与などの経費を払っても、経費としてみないし、もらった方の所得にならないといった規定です。
57条は、青色申告に限って、届け出を出せば給与として認めるといった規定になっています。
このように56条と57条では、家族従業員の取り扱いに差別があります。
 たとえば、家族従業員が年間200万円の給与に匹敵する労働をしても、56条のもとでは、事業専従者控除として配偶者の場合は86万円、家族の場合は50万円だけしか認められません。
 外に働きに出れば、200万円の給与がもらえるのに、家族従業員というだけで、実際に人間が働いたという事実も、その対価としての給与も認めないのは、家族従業員の人格を税法上、否定していることになります。
 憲法13条は、「すべての国民は個人として尊重される」としています。
人間が実際に労働したという事実を法律の一つに過ぎない所得税法が否定することができるのか、ここに所得税法第56条の最大の矛盾があります。
 56条が必要だとする理由に「家族内の意図的な所得分割のおそれ」が言われています。
 もちろん、労働の実態がないのに家族に支払ったことにしたり、労働の対価以上の給料を支払ったりするなどは、あってはならないことです。
 しかし56条は、こういう一部の意図的、脱法的な所得分割を防ぐために、実際にまじめに働いている家族の給与まで、すべて否定しているのです。
 意図的な所得分割は、青色申告でもありうることです。
 いくら記帳していても、税務調査のさいに、家族従業員への支払い給与が労働実態より過大であるとして否認されるケースもあり、所得分割と申告形式は関係しないのです。
 「家族従業員の給与を経費に認めるには、記帳が必要だ」とも言われてきました。
 しかし、1984年から、白色申告者でも年間所得が300万円を超える場合には、記帳と記録保存義務が課されています。
 所得税法第56条廃止にかかわる国会審議の政府答弁では、2009年9月、藤井裕久財務大臣が「廃止についてしっかり検討したい」と答弁し、2010年4月には、直嶋正行経済産業大臣も「56条は見直す意義がある。政策は省庁で横断的に実行したい」と明確に答弁しています。
 そして、所得税の改定により2014年1月から、すべての事業者に記帳が義務付けられています。
 「記帳してあれば、家族従業員の給与を経費に認める」というのであれば、年間所得300万円以上の白色申告者は1984年から、そしてすべての事業者は2014年から家族従業員の給与を経費に認めるべきだったのです。
 相模原市内にいる個人事業者42,500人のうち15,500人、36.5%が白色申告者です。青色申告にさまざまな特典をつけて誘導してもなお、白色申告にとどまる個人事業者が多数存在するのは、簡易で分かりやすい記帳に、事業者にとっての利点があることを示しています。
 そもそも記帳や決算は、事業者が事業を継続・発展させるために、財務状況を把握するひとつの手法であり、必ずしも税額計算が第一義的な目的ではありません。
世界の主要国では家族の働き分を経費と認め、家族従業員の人権・人格、労働を正当に評価しています。
 アメリカでは、家族労働の報酬は、通常かつ必要な経費で合理的金額であれば経費。
イギリスでは、家族労働の報酬は、事業目的に全体として専ら使用されるものは経費。
 ドイツでは、夫婦間、親子間の雇用契約が税法上も認められ、合理的な額の報酬は経費。
 フランスでは、家族労働の報酬は、実際の労働に現実に支払われ、相応である額は経費。
 そして韓国では、従業員には配偶者・扶養親族もふくみ、給与は事業所得の必要経費となっているなど、配偶者、家族の働き分を経費とするのは世界の常識です。
 青色申告者への特典の一つとして家族従業員への給与を必要経費として認める57条があります。
 特典を認めるのであれば、本来だれもが認められるべき家族の働き分を青色申告者だけに認めるといった白色申告者への差別的処遇ではなく、事業者の経理についての努力を積極的に評価するものにすべきではないか、という見方もあり得ます。
 国連女性差別撤廃委員会が2016年2月行なった審議会の総括所見を公表し、国連から日本政府に勧告されました。
今回初めて所得税法について明記し、「所得税法が自営業者や農業従事者の配偶者や家族の所得を必要経費と認めておらず、女性の経済的独立を事実上妨げていることを懸念する」、「締約国に対し、家族経営における女性のエンパワーメントを促進するために、家族経営における女性の労働を認めるよう所得税法の見直しの検討をすることを求める」と勧告しました。
 本年3月の国会審議のなかでも、昨年12月に閣議決定した第4次男女共同参画基本計画で、女性が家族従業者として果たしている役割が適切に評価されるよう、税制等各種制度の在り方を検討するとしたなかに、「所得税法56条が含まれると考えている」と明確に政府答弁しています。
 申告納税制度が導入されて半世紀を超えた現在では、会計知識の向上、パソコン会計の普及、工夫された記帳ノートなども行き渡り、青色と白色との間に実質的な差異はありません。
 したがって、このような不合理は直さなければならないし、このような規定があること自体おかしいのです。
 地方議会では、所得税法第56条の廃止を求める意見書が2016年4月15日時点で、445自治体で採択されています。
 所得税法第56条は、速やかに廃止されるべきであることを表明し、討論とします。